MINISFORUM N5 こぼれ話

なんやかんやと Minisforum N5 について 3回に分けてレビューをお届けしてきました。
最後にレビューには収まらなかった内容や、さらにマニアックなこぼれ話をお送りします。
目次
UEFI / BOIS
電源投入時に Delete キーを押すことで、UEFI / BIOS セットアップが起動します。操作感は Windows の「回復オプション」に近い UI/UX といった印象。
UEFI シェルはたぶん AMI(American Megatrends)製 Aptio ベースで、バージョンは 2.22.0059 でした。
また、電源投入時に F7 キーを押すことで Boot メニューを起動することもできます。
PCIe分岐(PCIe bifurcation)などの高度な機能はありませんが、必要十分な機能とメニューが実装されています。実際のところ触るのはブートオーダーと各種デバイスの有効・無効化あたりでしょうか。
SATA ドライブからの起動
UEFI の初期状態では 5インチベイの SATA ドライブから OS を起動することができません。
SATA ドライブを起動ディスクとして使いたい場合には、UEFI で [Setup] > [Advanced] > [Onboard Devices setting] > [Offboard SATA Controller Driver] を [Enabled] に変更します。
これで、次回起動時から SATA ドライブが起動ディスクとして認識されるようになります。
OS について
N5 シリーズは、NAS キットではありますが NAS 専用機というよりもミニ PC にカテゴライズされる製品です。
出荷時には MinisCloud OS と呼ばれる NAS OS がインストールされていますが、公式に Windows /Linux系 OS のサポートも謳われているため、N5 ユーザーは好みの OS をインストールして好きなように使う事ができます。
NAS 向けのハードウェア構成を備えながら、OS を自由に選べるのは N5シリーズの大きな魅力です。
MinisCloud OS(初期OS)
初期状態では MinisCloud OS という Minisforum 社製の NAS OS がインストールされています。私はまったく利用していない...どころか、届いてすぐに MinisCloud OS の入った 128GB の NVMe SSD を外しているので起動すらしておらず、詳細についてはよくわかりません。
「ひと通り必要な機能が揃っていて、高機能で使いやすい」という評価もありつつ、以下のようなネガティブな意見も多く目にしました。
- 操作・設定は専用アプリからの操作のみで、ブラウザや SSH コンソールには未対応
- 言語設定を英語や日本語にすると動作しない機能やメニューがある
- MinisCloud OS のベースは中国発の fnOS(未確認)
特に設定・操作が専用のアプリからしか行えず、SSH によるコンソールアクセス、ブラウザによる管理画面 UI の提供すらない点が不評のようです。
Minisforum としても初めての独自OS ということで、まだまだ発展途上という印象。
安定性やセキュリティ面についても未知数で「簡単に自宅で高性能な NAS を使いたい」というニーズには力不足な印象が拭えません。
やはり、N5 は「自分で好きな OS を入れてカスタマイズして自由に使いたい人向け」だなと感じます。
Windows 11
検証用に Windows 11 をインストールしましたが、なんの苦労もなくインストールできました。ドライバーパッケージは Minisforum の公式サイトからダウンロードできます。追加が必要なドライバーは少ないのでメーカー(AMD、Marvell、Realtek)から入手してもいいでしょう。
ちなみに Minisforum のサイトからダウンロードできるドライバーパッケージファイルは N5 Pro と共通のようで、N5 には不要な APU 向けのドライバーなども含まれていました。
Linux 系 OS
Linux 系 OS もサポート対象なので TrueNAS Community Edition(TrueNAS SCALE)をインストールして運用しています。
TrueNAS SCALE 24.x(Linux Kernel 6.6.x) では Marvell AQC113(10GbE)が UI に表示されませんでした。認識はしているようです。
$ lspci -nn | grep -i 'ethernet\|network'
02:00.0 Ethernet controller [0200]: Aquantia Corp. AQtion AQC113 NBase-T/IEEE 802.3an Ethernet Controller [Antigua 10G] [1d6a:04c0] (rev 03)
03:00.0 Ethernet controller [0200]: Realtek Semiconductor Co., Ltd. Device [10ec:8126] (rev 01)
TrueNAS SCALE 25.x(Linux Kernel 6.12.x)だとすんなり出てくるので、TrueNAS Sacle 25 系をお勧めします。
Linux 系だと Proxmox や Debian、Ubuntu あたりを使いたい方が多いと思いますが、できるだけ新しいバージョン(Linux Kernel 6.12 以上)を選んだ方が良いかもしれません。
一応 Marvell AQC113 は Linux Kernel 5.8 からサポートされています。Aquantia Kernel module / Driver など適切に有効にすれば動作するのかもしれませんが調べていません。
現在のハードウェア構成
前述の通り TrueNAS SCALE 25.04(Fangtooth)をインストールして運用しており、メインの用途は NAS です。True NAS SCALE 上では開発・実験用の仮想マシンや Docker コンテナが複数台走っています。
お財布事情もあって、とりあえず現在のハードウェア構成は表の通り。こんなの見て面白い人がいるのかよくわかりませんが。
デバイス | コメント | |
---|---|---|
メモリスロット1 | Crucial / DDR5 64GB | 公式には1スロット 48MB まで |
メモリスロット2 | 空き | 将来 64GB を追加して合計 128GB にする予定 |
M.2 スロット1 | KIOXIA / EXCERIA PLUS G3 | M.2 スロット3 と ZFS mirror で構成した高速ストレージプール |
M.2 スロット2 | 空き |
将来的に仮想マシンにパススルーして起動ディスクにでもする |
M.2 スロット3 | KIOXIA / EXCERIA PLUS G3 | M.2 スロット1 と ZFS mirror を構成した高速ストレージプール |
SATA ベイ1 | TOSHIBA / MG08ACA16TE |
SATA ベイ2 と ZFS mirror で構成した大容量ストレージプール |
SATA ベイ2 | TOSHIBA / MG08ACA16TE | SATA ベイ1 と ZFS mirror で構成した大容量ストレージプール |
SATA ベイ3 | SUNEast / SE900 128GB |
TrueNAS 起動ディスク(故障しても構わないので 非RAID) |
SATA ベイ4 | 空き | 将来的に大容量の HDD で埋める予定 |
SATA ベイ5 | 空き | 将来的に大容量の HDD で埋める予定 |
内部 USB ポート | Bluetooth ドングル | キーボード、マウス用 |
PCIe 拡張スロット | 空き | 何に使うか検討中 |
OCuLink コネクタ | 空き | 何に使うか検討中 |
ストレージ
5インチ SATA ベイ
TrueNAS のメインストレージは 5インチ SATA ベイにある 2台の TOSHIBA MG08ACA16TE です。ZFS mirror(RAID1相当)で構成された大容量ストレージプールで、低速ですが大容量のファイル置き場になっています。
起動ディスクは SATA ベイに収めた SUNEast SE900 128GB。TrueNAS は設定ファイルのバックアップさえあれば、起動ディスクが故障しても新しいディスクに新規にインストールするだけで済むので、メンテナンス(ディスク交換)のしやすさを考えて 5インチ SATA ベイに収めてます。
空きになっている 2つのベイは現在のところ未使用。将来的には大容量のドライブで拡張予定です。
M.2 スロット
M.2 スロットは 2つの PCIe 4.0 x1 スロットに KIOXIA EXCERIA PLUS G3 を ZFS mirror(RAID1相当)で構成。高速ストレージプールとして仮想マシンや Docker コンテナのイメージファイル置き場になっています。
PCIe 4.0 x2 の M.2 スロットが空きになっていますが、使い道はまだ決まっていません。開発用の仮想マシンにパススルーして使う感じになると思います。
その他
内部の USB 3.2 Gen2 ポートには余っていた USB Bluetooth トングルを刺してあります。NAS に Wi-Fi は必要ないけど、Bluetooth はあってもいいでしょう。
PCIe 拡張スロットと OCuLink は現時点では未使用。何か面白いことができないか考えていますが、現在のところ未定です。
OCuLink ポート搭載 PC は N5 が初めてで、なんだか面白そうなので用途が決まらないまま機材を揃えています。そのうち OCuLink についての記事にまとめようと思っています。
M.2 NVMe のヒートシンク
NVMe SSD スロットのすぐ上には小さな冷却ファンがあり NVMe SSD を効率的に冷却してくれそうです。といっても NVMe SSD の温度が低いに越したことはないので、3mm 高のヒートシンクを付けてあります。
冷却ファンとの隙間は結構狭いのでファンに接触せず、空気の流れにも大きく干渉しない 3mm 以下のものが良さそうです。
冷却性能と静音性
テスト期間も含めて2ヶ月ほど稼働させていますが、冷却性能は優秀で、ファンの回転音もかなり静かです。エアフローもよくてできているし、金属筐体も効率的な放熱にひと役かってそうです。
アイドル時の温度変化はとても安定していて、期待以上でした。エアコンがあるけど温度変化が激しい場所に設置していますが温度変化は以下の通り。

室温に対して 5インチベイの HDD は +6℃程度、SSD は +0.2℃。内部も上手に冷却されていて、M.2 NVMe SSD は +3〜4℃、CPU も +2℃程度で推移しています。
全てのスロットを埋めても十分対応できそうですね。
PCIe レーン(チャネル)について
前回のレビューで各コンポーネントのレーン数を確認しました。まとめると以下の表のように合計 16レーンになります。
占有レーン数 | 用途 | 補足 | |
---|---|---|---|
M.2 スロット1 | x1レーン | ストレージ | Miniscloud OS 用 128GB NVMe SSD |
M.2 スロット2 | x2レーン | ストレージ |
M.2 空きスロット |
M.2 スロット3 | x1レーン | ストレージ | M.2 空きスロット |
SATA 5ベイ | x2レーン | ストレージ |
JMiron JMB585 の制限で PCIe 3.0 接続 |
5GbE LAN ポート | x1レーン | ネットワーク | 搭載チップは Marvell AQC113 |
10GbE LAN ポート | x1レーン | ネットワーク | 搭載チップは Realtek RTL8126 |
PCIe 拡張スロット | x4レーン | 内部拡張 | PCIe ソケットの形状は PCIe x16 |
OCuLink コネクタ | x4レーン | 外部拡張 | SFF-8611 ポート |
合計 | 16レーン |
USB4 ポート や USB 3.2 Gen2 / 2.0 ポートは CPU 内部のコントローラーに直結しているので、CPU の外部 PCIe レーンを消費しません。
また、N5 と N5 Pro は CPU 以外の使用が同一なので、PCIe レーンの割り当ては同じ仕様と思われます。
N5 Pro の Ryzen AI 9 HX PRO 370 の PCIe レーン数は 16レーン。一方、N5 の Ryzen 7 H255 では PCIe レーン数が 20レーンあります。
実は廉価版である N5 の Ryzen 7 H255 の方が 4レーン多いことがわかります。
Ryzen AI 9 HX PRO 370 の公式情報。利用可能な Native PCIe Lanes が 16
Ryzen 7 H255 の公式情報。利用可能な Native PCIe Lanes が 20
おそらく「N5 Pro の廉価版として調達コストの安い Ryzen 7 H255 を搭載した N5 が用意されたのだろう」という開発事情を垣間見ることができます。知りませんけど。
逆に言うと、N5 シリーズは N5 Pro の Ryzen AI 9 HX PRO 370 を前提にきっちり攻めた設計がされていることがよくわかります。
N5 の方がトータルの PCIe レーンが4つ多く、そして余っているので、これをもし活用できるなら PCIe 拡張スロットを PCIe x8 に...とか M.2 スロットへの割り当てを増やしたり...なんて妄想をついしてしまいますが、それだと N5 の方が足回りのスペックが高くなってしまうし、両機の設計が別になるのはコスト的にも見合わないでしょうから仕方ないですね。
偶然発見したのですが、公式サイトの取扱説明書のページにあるマニュアルには N5 と N5 Pro では NVMe PCIe チャネルの割り当てが異なり、N5 は PCIe x1、PCIe x2、PCIe x4 であるといった記載がありました。
記載ミスだと思われます。
実際のところ前回 N5 も N5 Pro と同様の PCIe x1、PCIe x2、PCIe x1 構成になっていることを確認しており、ベンチマークにより裏付けも取れています。
開発段階では N5 の方が NVMe へのチャネル割り当てが多かったのかもしれませんね。実際のところはわかりませんが、興味深い記載ミス?です。
U.2 変換カードについて
N5 にはオンボードの2つの M.2 スロットを U.2 に変換するライザーカードが付属しています。この変換基盤を使うことで、U.2 ドライブを2つ、M.2 ドライブを1つ搭載できるようになります。
オンボードの M.2 スロットを U.2 コネクタへ変換する基盤なので、U.2 ドライブを搭載したところで速度的には M.2 と同等です。
U.2 変換カードのスロット | 対応するオンボード M.2 スロット | PCIe レーン数 |
---|---|---|
M.2 スロット | M.2 スロット1 | PCIe 4.0 x1(1.97GB/s) |
U.2 スロット1 | M.2 スロット2 | PCIe 4.0 x2(3.94GB/s) |
U.2 スロット2 | M.2 スロット3 | PCIe 4.0 x1(1.97GB/s) |
U.2 ドライブ利用時は 16TB という大容量 SSD がサポートされるので、この変換カードは大容量の SSD を搭載したいユーザー向けのオプションと言えます。
U.2 ユニットに M.2 NVMe SSD 2本を搭載するようなアダプターが世の中には存在しますが、この手のアダプターは PCIe x4 レーンが要求されます。
N5 の 変換カード上の U.2 コネクタは PCIe x2(U.2 スロット1)か PCIe x1(U.2 スロット2)なので、このようなデバイスは利用できないと思われます。
NVIDIA RTX 4000 SFF を PCIe スロットに!?
N5 の内部 PCIe スロットに NVIDIA RTX 4000 SFF を入れようとしている方がいました。NVIDIA RTX 4000 SFF は 2023年登場の 20GB GDDR6 を搭載した GPU で 307 TOPS を誇ります。
N5 Pro の AI 9 HX PRO 370 が 50TOPS なので、NVIDIA RTX 4000 SFF は大変魅力的ですが N5 シリーズの筐体に収まるサイズではないはずです。
Working on a killer home server for local LLM, financial data work, personal storage, Linux isos, etc.@Hi_MINISFORUM N5 Pro 96gb ECC + 4TB 990 Pro NVMe + RTX 4000 Ada SFF, running Unraid
— Web Begole, CMT (@web_begole) August 19, 2025
Lots of power to push llama.cpp ~13tokens/sec for larger 70B models, and ~35tokens/sec for… pic.twitter.com/ttwFaQjDNs
いったいどうするつもりなのかと思ったら、RTX 4000 をシングルスロットに収めるためのクーラーを作ってる会社があるようです。世の中、色んな会社がありますね。
NVIDIA RTX 4000 SFF を N5 に収めるのはかなり興味深いのですが、 RTX 4000 SFF は実売 20万円(2025年9月)とまだまだ高価。ローカル LLM などのために AI性能そこまで求めるなら別途 PC を組んだ方がコストパフォーマンスが良さそうです。でも楽しそうで羨ましい限り。
Minisforum N5 シリーズの影響
ここまで、Minisforum N5 について色んな視点でレビューをお届けしました。なんでこんな詳細に調べたのか自分でもよくわかりませんが、やはり「N5 のスペックや設計が気に入ったから」という点に尽きると思います。
NAS として必要な機能に、現代のミニ PCのトレンドである OCuLink、そして PCIe スロット、さらに N5 Pro には NPU 付属のプロセッサを搭載し AI ワークロードも意識した設計と競争力のある価格を実現しています。
レビューでみてきた通りすべてが完璧なわけではありません。仕方のないことですが、限りある PCIe レーン周りの設計が原因で拡張性には一部制限が出ています。
「あの機能をオミットして、その分あっちに回せばいいじゃないか。オレならこう設計するのに。」と改善案を言いたくなる人も多いんじゃないでしょうか(Geek 心をくすぐりますね)。
そんな魅力的な N5 / N5 Pro ですが、NAS 界隈(そういう界隈がある)でもとても話題になり、さまざまな人に多くの影響を与えています。
特に 5インチベイスロットが5台ある筐体は多くの人が気に入ったようで、なんと 3D プリンターで N5 のような筐体を製作し、自分で NAS キットを作った人まで現れました。
いやはやすごい。ぶっ飛んでますね。
使い手を選ぶニッチな製品ですが Minisforum N5 は非常に優れた製品だと思います。それなりに話題になりましたし、売れてそうなのでぜひ続いて欲しいシリーズですね。
Minisforum は精力的に面白い製品をリリースしているので、今後の Minisforum の動向も楽しみにしています。
多くの場合、NAS と呼ばれる製品には専用の OS が付属しており、ユーザーが自分で OS などをインストールする事は出来ません。出来ても保証外の使い方になってしまいます。